2005年02月23日

あと、その一

 きっと知り合い、まだこれしらないだろうから、息抜きに、無分別メモ。ちょっとヤケクソ気味に書く。そもそもidling、そういう目的だしな。もう気をつかうべき友だちなんて、ひとりも残ってないかも知れないけど。でも、自分の好きだったものに、過去も未来もない。”微かに傷つける”だけの、互いにただ退屈で不毛、しかし僅かに不快な”関係”というのが、今でも絶対に発生しないとは、誰にも言い切れない、だろう?



 前回のヤツ、クソだ。最後の会話、見苦しい。台無しだ。美貌をほのめかすのは、女流、或いは詩人の特権。俺は、単なる酔っぱらいだ。バーを愛してる。いや、愛しすぎた。その無能、嘆くべきだろうか? が、消すほどのこともないだろう。記録には意味がある。その前のヤツは、後半、悪くないと思う。

 Wolfgang Amadeus Mozart! Concert K.466。何だかヴェンさえ耳に痛い日がある。どんなに醜いロクでなしのクズにだって居場所があるなんて、話し相手がいるなんて、嘘だ。期限付きで、この暗闇と、十三分だけ雄壮で、あとは生ぬるくって、甘ったるい音楽があるに過ぎない。



 牛乳届けてくれたの、Nさんかな? ありがとう。電気代とガス代払いました。そんなのじゃ褒めてくれないかも知れないけど、だいいち、そんなの自分の為なのだけど、でも約束だから、もう二度と電話しません。



 なぜ俺がバーを愛したのか。彼等は詩や小説を知らない。薄暗がりに無言で(そう、何時間でも、ひとりで)空想する俺を無邪気に愛する。彼等は、読まずとも、知っている。「人殺しの酒」の意味を。知って尚、誰にも語るべきでない、多量、多大に過ぎる、薄っぺらな悲しみを、デカダンスを、無意識に抱きしめ、なのに! 禁断詩編「レスボス」の、あの世界を、正気で、やはり無意識に夢見てる! 自惚れ、ではない。傲慢でもないつもりだ。彼等こそ、俺の読者なのだ。書くというのは、生きることだし、デカダンスは文学ごっこなんかじゃない。生きること、冒険することだ。血みどろで、狂気じみて、幾万の軽蔑、絶望”させた”死体の山の上に。しかも、自己憐憫は一切抜きで! 



 カウンターの隅で、チンピラとアル中がサイコロ賭博をしている。その隣では、店長と、大地主で三代目の実業家氏が、税金対策と、三年後の商売について、話している。俺は誰とも話さない。十分だけ彼等を観察した。それから次の観察対象、客の来るのを待った。運悪く、その後、二時間、誰もこなかった。実業家氏の話はだんだん滅茶苦茶なものになり、来年清掃会社を始めることから、今ある競艇場の利権の扱い、パチンコで十万負けたこと、今度の九百万の仕事、口利きだけのヤクザに三百万持っていかれたこと、麻雀で五十万勝ったこと、声はどんどん高くなり、アル中もチンピラも、話に加わって、手がつけられなくなった。そんな状態で二時間。珍しいことじゃない。いつものことだ。俺は声の高さの他には、彼等がそれほど不快でないし、そもそもその日は、ひとりで少し考え事をするために店に行ったのだ。少し場違いで、店のヤツに悪いとすら思っていた。
「マキちゃん、おかわりつくる? ごめんね、ちょっと賑やかで」
「うん、おかわり、ください」
「オイ! オマエさあ」
 荒れ狂う実業家氏。確かになあ、間が悪い。気をつかってくれたんだろうが、ほら吹きの酔客(いや、彼は本当に金は山ほど持っているし、デカイ仕事もしてる。店の常連だし、あんなに酔ってなければ、もう少しマシな人間に違いない)を相手に、だけど素人じゃないんだ、シモン、タイミングが悪い。
「オマエさ、パチンコで十万負けたことある?」
「いや、パチンコとか、全然したことないんですよ」

 運が悪かった。男達はいつの間にか博打の話に夢中になり、いつか、カジノの話を。それから川崎のソープランドの話。愉快そうに話してる。一瞬、俺も勇気を出して、彼等と楽しくやろうかな、なんて思ったけど、止めた。ボードレールについて考えていた。それから、サキについて。
「ねえ、シモン、おしぼり、もらっていい?」
 右目の毛細血管が破裂していた。鼻血も出始めた。おしぼりで、顔半分、ぐっと押さえて、やはりまた何か詩について考える。何しろ今日はそれが目的なのだ。
 絶好調の実業家氏。
「でな? オイ! お前知ってる? ほんとエグいんだよ、ヤクザ。年間九百万だぜ? 口利くだけで。馬鹿らしくなっちまうよ、なあ? やっぱアレ系はなあ…、いや、まあおれだってカタギじゃ…」



 嗚呼! 私の専門は、生きることと、死ぬこと、それから女性について。自負がある。明確な意思がある。



「なあ、シモン。あのテレビに映ってるやつ、MTV? 今やってるの、第七位? あれ、なんていうの?」
「なんだろう? AIって書いてある? よくわかんない。なに、マキちゃん、ああいうの好きなんだ?」
「だって女の子、すごく可愛いじゃん。画も音も、ちょっと不良っぽくて、素敵だ」

「オイ!」
 大金持ちのアウトロー。町の顔。デカい機械。何かの王。
「Oさん、ダメだって。こっち側はべつ。こっから向こうでしょ?」
「いいよ、シモン。おれ、辛気くせえからなあ。鬱陶しいんでしょう?」

「ちっげえよ! なあ? だから、ヤクザってのはさあ…」
「本当にすみません。どうもおれ、陰気で。いつもこうなんです。でね、カジノ? ソープ? ねえ、おれ、あなたみたいにお金持ちじゃないし、事業とか、経営の苦労とか、六本木の女とか、全然わかんないけど、ね、もう少し、声落としてくれよ。考え事があるんだ」

 ダッセえ革コート。その下のカフス。俺の胸ぐらを? 本気かよ?
「あ、いや! ちょっとOさん!」
「いいよ、シモン。ねえミスター。言ったろ? おれはあなたのこと知らない。楽しい時間、邪魔するつもりも全然ない。酔ってんだろ? ね、ちょっと失礼だと思うけど、おれの目、今片目だけどさ、見てみ。ほら、ね。わかるだけの脳みそ、残ってる? うん、いい目。だからな、大声を出すな。おれに聞こえるように、知った風なことを話すな。今日は大事な日なんだ。詩について考えてる。しかも、冴えてる。考え事の邪魔をするなら、本当に殺すぞ。争いごと、好きじゃない。恨み合うのも、憎むのも。つまんないのはよそうよ。俺は今夜まだやることがある。考え事、だね」


 いつもの階段を降りる。やたらと風が強くって、嵐の気配。
「マキちゃん、ホントごめん。ありがとう」
「え? いやおれこそごめん。ごちそうさまです。ごめんね、ほんと」
「車、呼ぶ?」
「今日はね、まだ考え事、あるんだ。だからいい」
「歩くの?」
「シモン、知ってんだっけ? 俺のこと?」
「知らない」
「ん。ならいい。じゃあね。あと一軒。そのあと海に行く」



 俺は自分を隠すのは好きじゃない。知られたくないなら、騙す。暴かれて、見透かされて、嗤われることは、孤独とは違う。



 昔おれの肩にライブカメラをつけておいたら、いい見せ物になるのにね、なんて言ってくれた友だちがいた。真夜中、砂まみれ、びしょ濡れの血塗れで、潮風にガンガン叩かれながら、逗子の砂浜を歩く。ちんまりした、俺の大好きな海。だけど風のせいで波が白く泡だって、いかにも俺向きな感じ、夜空に雲が、あの独特の速さで、銀月はかの女の軽蔑、失望の白眼を思い出させてくれたし、信じられないかも知れないけれど、無人のそういう滅茶苦茶な現代の荒野に、俺はボードレールを叫んでいた。憂鬱と理想 詩篇五十七「或るマドンナに」だったか。何度も転んだし、吐いた。倒れるたびに、解放される気がした。だけどそれに甘えちゃいけない。走って、走って、岸壁を乗り越えて、最高の場所で! 狂ってると思うんだろう? 不思議だなあ。俺は正気なんだ。デカダンスは文学、芸術ごっこなんかじゃない。



 さっぱり意味がわからないのだが、曙に、海岸道路の交通整理の警備員に殴り倒されていた。彼はいい目をしていた。私のことなんて、絶対に”知りたくない”という、いい目をしていた。私があの海に、飛び込むとでも、勘違いしたんだろう。どうも、そのことで一悶着あったらしい。私は半分海に転落していた。濡れて、冷たく、彼に言わせれば、「死んでいるように」見えた。


 すこし疲れた。続きは今夜、書ければ書く。

posted by kawai toshio at 16:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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